当選者 「さてと・・・ちょっと出かけてくっか。」 乱馬は玄関を出て、散歩に出かけようとしていた。 「ぱんぱかぱーん!おめでとうございます。あなたは0.7人目の異空間当選者に選ばれました!」 どこからか声が聞こえた。 「な、なんだ!?」 乱馬は何が起こったのかわからなかった。 「それでは、早速行きますよね?ええ行きますとも。そうですか、じゃあ行ってらっしゃい!」 そんな声が聞こえたかと思うと、乱馬は突如 "何も変化のない、ごく普通の状態の" 地面の中に落ちた。 「・・・ったく、一体何が起きたってんだ?」 乱馬は起き上がると、いつもの景色があった。 「・・・なんでえ、気の迷いかなんかか?」 乱馬は外に出たと思った。だが、何故か居間にいた。 「どうなってんだ?一体・・・」 居間から出ようとすると、今度は風林館高校の化学実験室にいた。 実験室を出ると豚相撲部屋にいて、そこを出るとまた別の所へと、不規則な移動を繰り返していた。 「・・・窓から飛び下りたらどうなるんだ?」 乱馬は窓から飛び下りようとした。 すると、地上80mの高層ビルの窓から落ちていた。 「へっ・・・?」 予想通りのような、予想外のような展開に、乱馬は驚いていた。 乱馬は慌ててビルの壁にへばりつき、窓を割って入った。 すると、何やら不気味なところにいた。 「ここは・・・どこなんだ?」 あまりの薄気味悪さに思わず身震いしてしまっていた。 「ようこそ、三途の川へ・・・」 声が聞こえた。 「そうか、いつか見たと思ったら・・・へ?」 「あの・・・ところで、死んでいないとここへは来てはならない規約がちゃんと書いてあるんですが・・・ まだ死んでいないのでしたら、死んでからいらしてくださいませ。」 「俺だって、来たくて来た訳じゃ・・・」 その直後、乱馬は違う所に来ていた。 「なんだ?随分とシダ植物が茂っているな・・・」 そして、乱馬は嫌な予感がしていた。 後ろを向くと、何か大きな生き物が。 「な、なんでぇ、アロサウルスじゃねーか・・・」 乱馬が顔を引きつらせる事2.77秒。その直後、乱馬は逃げ出した。 「なんでよりによってこんな所に〜!!」 さすがに体格差10倍近くもある恐竜に立ち向かう勇気はなかった。 「み、湖がある・・・あそこに潜り込めばなんとかなるかな・・・?」 一か八か、乱馬は湖に飛び込んだ。 「・・・今度は・・・?温泉か?ここは。」 見た所露天風呂のようなところであった。 だが、真の恐怖は乱馬の背後にあった。 「ねえ、あんた。どこから湧いて来たのさ?」 中年のおばさんが数人、乱馬を囲み出した。 「なんだ、いい男じゃない・・・遠慮しなくていいのよ。ほら、服も・・・」 乱馬は恐竜に襲われた時以上に身の危険を感じ、慌てふためいて逃げ出した。 脱衣所と思われる戸を開けると・・・ごく普通に脱衣所だった。 「へ・・・?今回は移動なし・・・?」 今度はこれから入ろうとしていた若い女性数人に睨まれ、乱馬は逃げ道を失ってしまった。 だが、なんとか女性を振り切り、真直ぐ駆けて奥の戸をあける事に成功した。 しかし、まだ甘かった。 「おや、兄ちゃん。そんな格好でよくここまで来られたな・・・何かあったのかい?」 外の景色と中の景色を見て、どうやらここは雪山の中の小屋のような気がしていた。 そして、まだ風呂にいた時の水が残っており、寒さが直接身に染みていた。 「おいおい、早くそこ閉めろよ。死んじまうぞおめー。」 中にいた男は乱馬を火で暖めさせた。 しばらく暖まると、乱馬は立ち上がった。 「世話になったな、済まなかった。」 乱馬は、そこから出る決意をした。 「お、おい・・・せめて吹雪が止んでからじゃねーと・・・」 乱馬は、男の言葉を最後まで聞かず、外に出た。 そして、今度出て来たのはあかねの部屋だった。 「・・・ようやく見覚えのあるところに出たな・・・ん?」 乱馬の目に、あかねがだらしなく寝ている姿が映った。 「ったく、しょーがねーな・・・女なんだからもちっと寝相くらい・・・」 乱馬は、どことなく視線を天井に向けながら、あかねの寝相を初期状態に戻そうとしていた。 「・・・乱馬ぁ・・・どこ触ってんのよ・・・」 あかねの寝言に乱馬は思いっきり怯んだ。 「べ、別に俺は変なとこ触っちゃ・・・うぎゃ。」 乱馬は哀れにもあかねの寝相の悪さの餌食となった。 あかねにしっかり捕まえられた乱馬は逃亡不能になってしまった。 「ま、まずいな・・・早く逃げねーと命がいくつあっても足りやしねえ・・・」 しかし、30分、一時間、果ては五時間経ってもあかねは乱馬にしがみ付いたまま動かなかった。 その間、どうして乱馬は逃げようともしていなかったのかは別として。 「あかねのやつ・・・大人しいじゃねえか・・・」 その時。 「・・・?乱馬?」 あかねが目を覚ましたようだ。 「・・・何しがみついているのよ。もしかして寝込みを襲うつもりだったの?」 「いや、ち、違う・・・俺はただ・・・」 乱馬は今までの事を全て言ったが、あかねは全く聞いていなかった。 そして、乱馬は床に叩き付けられた。 と、同時に床の中へと飲み込まれていった。 「・・・でも、なんか今日は気分がすっきりと・・・あれ?乱馬?」 「お帰りなさいませ。楽しかったですか?」 乱馬は最初いた場所に戻っていた。 「・・・ちっとも楽しくねーよ。」 「そうですか・・・それはよかったですね。ではまた当選したときはお知らせしますので。」 「・・・もう来るな。」 「・・・ぱんぱかぱーん!今度は異次元世界への旅が当選いたしました。従いまして・・・」 「もういい。」 終わり。