くまくまがやって来る 「あかりちゃん、大丈夫かい?」 「はい、良牙さま・・・」  二人はだいぶ山奥を歩いていた。目的地はその土地特有の、有名な団子屋である。  しかし、いつの間にか道を間違え、段々道のないところまで行ってしまった。  あかりは薄々感じていたのだが、どう戻ればいいのか、分からなかった。 「・・・なぁ、段々道を外れているような気がしないか?」  良牙はついにその事を言った。 「そんな気はしますが・・・どう戻ったらよいのか、私にも・・・」 「そうか、すまない・・・俺が方向音痴なばかりに・・・」 「いえ、道は私が見るべきでしたから・・・私がしっかりしてなかったのが悪いのです。」  二人に沈黙が続いた。 「・・・とりあえず、山を下りません?そうすれば、道が見つかると思いますので・・・」 「そうだな・・・ん?」  良牙は何者かの気配を感じていた。 「あかりちゃん、動かないで・・・何かが近くにいる・・・数は一つ・・・」  良牙は気配と音で正体を特定しようとしていたが、それは草陰にひょこっとすがたを現した。 「熊か・・・?」  熊は、つぶらな瞳で二人を見ていた。まるで、様子を窺うかのように。 「・・・敵意はないようだが・・・なんだか不気味だな。とりあえず、あっちに行くか。」  二人が道のない道を進むと、熊は特定の距離をとりつつついて来た。  良牙やあかりが振り向くと、近くの低木などに姿を隠す熊。 「なんだか、不思議な熊さんですね・・・もしかしたら、見守ってくれているのかしら・・・」 「そうかもしれないが・・・あるいはどこかに向かわせているのかも知れないな。」  二人は色々考えつつも、前に向かって歩いていた。  しばらく歩いていくと、二人は何かに気付いた。 「・・・もしかしたら、山を一周していないか?」  「まさかそんな事は・・・でも、どこかで見たような景色ですよね・・・」  と、二人の前に兎が飛び出した。  兎はぴょこぴょこと二人の前をくるくる回ると、ぴょんぴょん跳ねて行った。  兎はある程度進むと、振り返って二人を見ていた。 「もしかして、ついて来てって言っているのではないでしょうか・・・」 「まさか・・・いくら俺が方向音痴だからと言って、兎に道案内される覚えは・・・」 「でも、行ってみましょうよ。ほら、手招きしてますし。」  良牙が半信半疑で兎を見てみると、確かに兎は小さな前足で招いているように見えた。 「・・・そうだな。ただここで熊に見守られながら山をずっと彷徨う訳にもいかないしな。」  良牙は決心して、兎についていく事にした。  兎は蛇行しながらも、二人を案内するかのように跳ねていた。  そして、数十分後。 「・・・あ、この店か・・・?」  なんと、奇跡的にも二人は目的地の団子屋につく事ができた。 「ありがとうございます、うさぎさん。」  あかりは兎に礼を言った。  そして、二人は団子を注文したのだが、妙な視線が気になって仕方がなかった。  二人が視線を感じる方向を見ると、木に隠れながら、熊と兎がじっと見つめていたのである。 「・・・どうやら、この二匹は団子が目当てだったようだな・・・だから俺達を・・・」 「そんな風に考えてはいけませんわ。助けてもらったのですから、礼はしなければ。」  あかりは団子を二つ注文すると、熊と兎のいる近くに団子を置いた。  あかりが立ち去ると、熊と兎はぺこんと頭を下げ、団子を食べ始めた。 「これでよかったのですわ・・・さぁ、帰りましょう、良牙さま・・・」 「あ、ああ・・・」  良牙はあかりに引っ張られて帰路へと進んだ。  熊と兎は、団子をくわえながらいつまでも二人を見送っていた。 終わり。