それは、ある夏の日の事であった。
あかりは夏が来ると決まって昔の事を思い出していた。
それは、あかりがまだ6歳の頃の頃の話であった。
あかりが当時花火を楽しんでいた時、あかりは線香花火を使っていた。
線香花火はちいさく、儚く輝いていた。その不思議な光にどこか見入られていたのである。
そして、線香花火は先端を球のようにして、その光を終えてみじめに地面に落ちたのである。
不思議に見ているあかりに、あかりの母はそっとあかりの肩に手を置いた。
「線香花火はね、一瞬は輝いて綺麗だけど、でもね、その役目が終わったらそのまま、落ちてなくなっちゃうのよ。
ほら、もう一回やってごらんなさい?」
あかりは母が出したもう一本の線香花火に火を付けた。
線香花火は先程のと微妙に光が違ったが、その光を見てあかりはこう考えていた。
もし、火を付けなかったらこれは地面に落ちなくてすむんじゃないのかな・・・
だが、あかりはただじっと線香花火が役目を終わるのを見守っていた。
あかりは、何を思ったのか役目を終え、地面に落ちた赤玉に手を近付けた。
すると、突如火花が出てあかりはやけどを負ってしまった。
「ねえ、お母さま・・・まだこの花火、役目終わってない・・・だって地面に落ちてもまだ光が・・・」
しかし、母はそれどころではなかったようだ。
「あかり!大丈夫?今氷水持って来ますからね。」
母は慌ただしく家を駆け回っていた。
あかりは自分の痛みよりも、落ちた花火の事だけの事を考えていた・・・
何故か毎年、夏になると蘇る記憶。
今のあかりは昔のあかりに問い掛けていた。
どうしてそんな事を考えていたのかを。
何でそんな事を考えていたのか、今でもわからない。
でも、昔の自分はいつまで経っても答えを出してはくれなかった。
ただ、笑顔と、驚きと、痛みだけが脳裏に蘇っているだけだ。
あかりは夜の庭を歩いていた。
昔花火をしていた所。そこで昔と同じように座ってみる。
懐かしさはあっても、昔の思いまでは完全には思い出せない。
どこかもどかしい感じを、紛らわそうとまた歩き出した。
あかりは池まで歩いた。
池は静かに、月を映し出していた。
池に映し出された月の光はあかりの顔を照らしていた。
池を眺めながら、あかりはもう一つ、大切な事を思い出した。
大切な人の安否。
いつも不安で心がいっぱいになってしまう。そんな大切な人のことである。
「良牙さま、今はどうしているのかしら・・・」
つい溢れた不安が言葉となってこぼれてしまう。
あかりの不安の顔は、池にうっすらと映っていた。
その時である。
「あら・・・蛍?」
蛍が一斉に光を放ってあかりの周囲を飛び回ったのである。 あかりはその蛍の光に一つの答えを得た。 役目と言うのは、実際に手で調べないと最後なのかは分からない。また輝くかもしれない。 いや、それは本当は役目という言葉ではなく、昔は分からなかった命と言う言葉で説明がついた。 蛍は目的があるから、光を一度放たなくなったからと言ってそれで終わりではなく、 またもう一度光を放つ事がある・・・本当の役目を果たす時まで。 その発見で、あかりはもう一つ喜ぶべき結論にたどり着けた。 良牙がこの間会った際に言った言葉があった。 「例え何があっても、俺は死なない。どんな災難にあっても必ず・・・また会える。」 そう言い残して良牙は再び厳しい修行に向かったのだった。 その、良牙の言葉の意味を完全に理解したように思えたのだ。 「どんなに時間が掛かっても・・・どんなに時が過ぎても・・・ずっと待っていれば、また会えますよね・・・良牙さま・・・」 あかりは立ち上がり、飛び交う蛍達を見ていた。 そして、その光の奥に良牙の微笑みがうっすらと見えたような気がした。 |
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終わり。