「はぁ・・・はぁ・・・」
周囲の明るい空気の中、それをかき分けるような息の音。
全身ぼろぼろの男はその場にはあまりに相応しくなかった。
「あと一週間以内か・・・間に合うのだろうか・・・」
その男は大阪駅を何周も回っていた・・・
「お、おい、いきなり何処へ連れて行く気だよあかね。」
おさげをした男はあかねと呼ばれたショートカットの女に手を引っ張られていた。
「いいから道場まで来て頂戴よ。」
機嫌の悪そうな調子であかねはその男に返事をした。
「おれに何の用があるんだよ!」
男は引っ張られながらも大声で怒鳴る。
「ちょっと話があるの。いいから黙ってついてきて。」
それを聞いた男は一瞬だけ驚いた表情をしたが、その後諦めたような表情にかえた。
「あー分かった分かった。ついてきゃいいんだろ、全く・・・」
そう言うと、掴まれてた手を乱暴に振り払い、大人しくあかねの後を付いていった。
少し経って、誰もいない道場に二人が入ると、あかねはゆっくりと口を開いた。
「あのね乱馬、ちょっと頼みたいんだけど・・・」
乱馬と呼ばれた男は、その先程までの態度の違いに少し驚きつつもあかねの話を聞いた・・・
数匹のブタが相撲の稽古をしている一風変わった場所で、そのブタ達の様子を見ている少女は、
何処かしらそわそわして落ち着かない様子であった。
(もうすぐ良牙さまとの二人っきりのクリスマス・・・この一週間が待ち遠しいですわ・・・)
その少女は何かを思っているようだ。
(も、もしもどこか静かなところで・・・良牙さまに・・・なんて・・・)
少女が我に返ると、周りの数匹のブタが不思議そうにその様子を見ていたことに気付いた。
少女は一人顔を赤らめ、数匹のブタの視線を浴びながらその場を走り去っていった。
数日後、東京にある男が現われた。
例のずたぼろの男である。
「ここは・・・ようやく来れたのか・・・」
その景色を見ながら男は呟いた。
「良牙さま!」
突然後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
良牙は驚き、後ろを振り向いた。
と、そこには探し求めていた姿があった。
「あ・・・あかり・・・ちゃん・・・」
良牙は突然の驚きと感動に放心状態になっていた。
「ど、どうしてここに・・・」
良牙は茫然としながらもそういった。
「どうしてもいわれましても・・・ここは私の家ですけど・・・」
あかりは少しためらい気味に答えた。
良牙は周りを良く見てみると、そこにブタ相撲部屋があることにようやく気付いた。
ブタ相撲部屋、そこが彼女の家である。
その中ではたくさんのブタが横綱目指し、練習を怠らない。
冬でありながら中は熱気に溢れていた。
そんなところにこんな可憐な少女がいるとは、普通思えないだろう。
良牙が惚けていると、あかりは声を掛けた。
「あの・・・とりあえず中に入りませんか?外は寒いですし・・・」
「え?・・・あ、ああ、そうしよう。」
一瞬慌てた様子を見せたが、良牙はすぐに普段の表情に戻した・・・若干笑みがこぼれてはいるが。
その仕草にくすっと微笑であかりは返事をした。
良牙はややそわそわした様子であかりの後をついて行く。
家の中に入り、あかりはふと振り返って驚いた。
「あの・・・良牙さま?」
突然呼び掛けられて良牙は一瞬戸惑った。
「あ、あの・・・靴・・・脱いでから入ってもらえますか?」
はっとして良牙が自分の足元を見た。
良牙はあまりの緊張に靴の事すら意識に入らなかったのだ。
あかりは慌てて雑巾を持って来て、床を拭きはじめた。
その様子をみて良牙はようやく冷静さを取り戻した。
「(そうだ・・・ここで理性を失ってはいけない・・・)しっかりせねば・・・」
「え?何かいいました?」
床についた汚れを一生懸命におとしながらあかりがすかさず聞き返す。
「え?い、いや、なんでもないよ、ははははは・・・」
どう見ても怪しい行動ではあったが、あかりは特に疑う気も起こさなかった。
とりあえずあかりは相撲部屋の案内をはじめた。
ブタならではの細かい技の説明などもあったが、良牙にはよくわからなかったようである。
続いてぐるぐると家と相撲部屋をまわっている。
「いやぁ・・・結構広いんだね、あかりちゃんの家って。」
「そんな・・・それほど大きく無いですよ。」
心無しか同じようなところを歩いている気がしたが、方向音痴のせいか、良牙は気付いていない。
結局1時間以上掛けて家中をまわったが、もちろん普通にまわるのだったら1時間もいるはずは無い・・・
最後に、良牙はあかりの部屋を見せてもらった。
小さい部屋ながら、物は全て綺麗にしてあり、実際以上の広さを感じさせている。
良牙があっけにとられながら部屋を見ている間にあかりはそっと戸を閉めた。
あかりの部屋は2階だが、太陽の光がが窓からさんさんと降っていた。
良牙が窓からの景色を見ている間には、既に座ぶとんが用意してあった。
良牙が後ろを振り向くと、あかりは座ぶとんに座るように言った。
と、その時である・・・
窓から誰かが飛び込んで来た・・・もとい、飛ばされて来た、と言うべきであろうか。
その男は良牙の頭を蹴ってその反動で身軽に体勢を整えた。
無論、いうまでもなくその男は早乙女乱馬であるが。
一方、不意を突かれた良牙はそのまま前にいるあかりに覆い被さるように倒れた・・・
いや、なんとか腕を立ててあかりにぶつからないようにはしていたが。
「ったくあかねのやつ・・・あんなくらいでぶっとばすこたぁねーだろっ!」
目の前の光景なぞ気付きもせず、乱馬はふてくされているようだった。
いや、一瞬後に気付いたようだ。
「あ・・・ごめん、邪魔して悪かったな。んじゃっ!」
そう言うと乱馬はさっきの窓からさっさと出ていった。
2人はしばらく呆然としていた。
少しして、良牙がすぐに窓に木の板を打ち付けた。
どこに道具があったのかは不明ではあったが、とりあえず冬の寒い風はそれで防ぐことができた。
「あ、あの・・・良牙さま?」
あかりがどこか恐る恐る呼び掛けた。
「な、なんだい?あかりちゃん・・・」
「あの・・・戸を外されたら困るんですけど・・・」
どうやら戸を打ち付けていたようだ。
その後少し沈黙があり・・・どちらも静かになっていた・・・
「すまない・・・つい・・・」
「いえ・・・ここに代わりの戸があるのでつけてもらえますでしょうか・・・」
そういうと、あかりは押し入れに入っていた戸を出してきた。
「この戸は古かったのでこの間替えてたんです。もしかしたらと思って押し入れにしまっといたので・・・」
「そ、そうだったんですか・・・」
よろよろと倒れそうになりながらも良牙は古い戸を付けた。
そろそろ日も暮れてきた頃である・・・
良牙はあかりに見送られながらその場を後にした。
3日後の約束を残して・・・
その夜、乱馬はあかねの部屋に呼び出されていた。
「・・・んで?なんでおれがそんなとこに行かなきゃなんねーんだ?」
「だってぇ・・・いいでしょ、乱馬?」
「まぁいいけどよぉ・・・おれはそんなとこに行く金もってねーぞ!?」
「だからぁ!足りない分は私が出すから・・・」
「ちぇっ、これだから・・・」
「何よ?文句ある?」
「いや・・そんなわけじゃ・・・」
「んじゃ決定ね?ちゃんと地図渡しておくからちゃんと来てよね?」
「わかったわかった・・・んじゃ、俺はもう寝るからな。」
「はーい。おやすみ、乱馬。」
「あ、あのさ・・・」
「え?」
「い、いや、何でもねぇっ!んじゃなっ!」
そう言うと、乱馬はすぐにあかねの部屋を出た。
「・・・変なの。」
そう言ってあかねはすぐに寝付いた・・・
・・・当然、この会話はなびきに聞こえていた。
なびきは不敵な笑みを浮かべ、何やら思案しはじめた。
そしていよいよ運命の日がやってきた・・・
天道家では朝からかすみがいろいろとクリスマスの支度をしている。
乱馬と玄馬は早朝から修行をしている。
早雲は新聞に目を通している・・・が、早乙女親子に邪魔されたようだ。
あかねはいろいろ服を出してどれを着ようか迷っている。
なびきは何かを楽しみにしているようである。
やや立って朝食の時間・・・
早雲はちらっと目を乱馬とあかねに向けた。
「乱馬くん、あかね、今日はせっかくのクリスマスなんだからどこかに行ってみてはどうかね?」
相変わらずの事をいう早雲。
「けっ、だれがこんなかわいくねー女と一緒にデートするかよ!」
「おとーさん!」
当然のように否定する二人。
「あら?確かお二人さん今日は予定があるんじゃ無かったかしら?」
冷やかすように言うなびき。
「そ、そんなわけないでしょ!」
顔を真っ赤にしつつも否定するあかね。
「ふっ・・・そういうことにしといてあげるわ。」
「あのね〜・・・」
「まぁまぁ、後は任せておくから、頑張っておいで?」
何となく意味深な言葉を残し、早雲は再び食事に集中しはじめた。
「乱馬よ・・・いや、もはや何も言う事では無いか・・・」
玄馬もまた意味深な事を残して食事を再開した。
「な、なんだよおやじまで!」
そんな中、かすみはただ微笑をたたえるのであった。
時を同じくして、良牙は千葉の山中で迷っていた。
「公園は一体何処なんだ!」
良牙はかなり焦っていた・・・
午後8時までには辿り着かないと約束の時間が過ぎてしまうからだ。
「(今は多分名古屋・・・もう少し走れば間に合うかも知れん!)」
そう言って良牙は南に走って行った・・・
そしてそのころあかりは、先日までに作ったものを袋に入れているようだった。
そして昼になり・・・
乱馬とあかねは別々に外に出て行った。
出ていく時にみんなが注目していたのは言うまでも無い。
ただ、なびきだけは姿を見せていなかった。
一方良牙は・・・
「ここは何処なんだ〜!!」
まだ彷徨っていた。
夕方・・・
天道なびきは右京と小太刀とシャンプーの3人を近くの公園に呼びつけていた。
なにやらひそひそと話をしているようだ。
30分くらい立って、ようやく話がついたのか、なびき以外の3人は去って言った。
なびきの手には大量の札束がある。
「乱馬くん、あかね、ごめんね・・・」
なびきは札束をぎゅっとにぎりしめるとそう言った。
しかし・・・
「あっ、そうだ・・・九能ちゃんにも言っちゃおっと。」
数秒後には先ほどの様子を微塵も見せず、すたすたと九能家に向かって行った。
そして午後7時・・・
乱馬とあかねは遊園地にいた。
「ふぅ・・・なんでこんな日にわざわざ遊園地なんか・・・」
乱馬はどうもかったるげな様子である。
「だからいいんじゃない・・・って、あんたにはわからないわよね・・・」
ため息まじりにあかねが返事をする。
「けっ。」
つまらなそうに返事をする乱馬。
「あっ、乱馬!ほらほら、あれきれーい!」
あかねが色とりどりのライトに照らされた噴水を指差す。
「ただの噴水じゃねーかったく・・・」
乱馬の態度に呆れつつも、あかねは乱馬の顔をそっとみてみた。
すると、そっぽを向いてるはずの乱馬の目線とあかねの目線があってしまった。
慌てて何も無いところを見る乱馬。
あかねはくすりと笑うと、
「なあんだ、そうだったんだっ!」
そういうとあかねは乱馬のたくましい腕にしがみついた。
「あ、あかね?」
「さっ、早く向こう行こ?」
「・・・・・・」
乱馬は顔中まっかにして、何も喋られない様子である。
たっぷり1分程経って、ようやく乱馬は口を開いた。
「え、えと・・・こっち・・・いきゃ・・・いいんだろ?」
と、ぎくしゃくと歩き出した。
少し歩いて、乱馬は噴水の近くにあったベンチに座った・・・たぶんこれが限界だったのであろう。
「な、なぁ、あかね・・・」
「なに?乱馬。」
「あ、あの、さ。お、お前、い、いつもと、何か、ちがわねーか?」
「だって今日は特別な日でしょ?たまにはこれくらいしたっていいじゃない・・・文句ある?」
「あ、いや、いいんだけど・・・っていや・・・まぁ・・・」
「何よ?」
「そのっ・・・こういうのもいいかなって・・・」
「そうでしょ?ほんとに素直じゃないんだから・・・」
そういうと、あかねは腕にさらに軽く力を入れた。
その頃。
あかりは小さな公園で静かに良牙を待っていた。
「そろそろ9時・・・時間通りに来て下さるかしら・・・」
いつもは2週間や1ヶ月普通に待てても、さすがにクリスマスだと勝手が違うようだ。
ふだん連れているカツ錦も今日に限っては連れてこなかった。
その面では若干不安もあるが、良牙と二人っきりになれるという期待感の方が強かったようだ。
ところが・・・
あいにくにも、あかりの前に現われたのは良牙ではなかった。
不良が4、5人程やってきたのだ。
「なぁお嬢ちゃん、ちょっと俺達と楽しまないかい?」
一人がそういうと、周りの不良が下卑た笑いをした。
あかりは恐怖で悲鳴をあげた。
しかし・・・その近くは人気がなく、周囲には誰もいなかった。
「まぁまぁ・・・そう大声あげても誰もこないから安心しろ!」
ますます笑いが大きくなる不良達。
ところが一人だけ、その悲鳴に気付いた男がいた。
良牙である。
「(あかりちゃんの身に何か起きたに違いない!)」
そう思って、良牙は悲鳴の聞こえた方向に真直ぐ向かった。
一方あかりは、じわじわとちかづく不良に恐怖を隠しきれないでいた。
と、あかりは隅の木にぶつかり、逃げ場がないと悟った。
あかりはしゃがみ込んで諦めたその時!
「お前ら・・・あかりちゃんにそれ以上手を出したら許さねえぞ。」
「良牙さま!」
あかりの表情がぱっと輝いた。
「貴様ぁ!女の前だからってかっこつけてるんじゃねえぞっ!」
怒りをあらわにした不良達が一斉に良牙に襲い掛かる。
しかし、いくらナイフを持った不良とは言え、良牙に勝てるはずはなかった。
一瞬のうちに不良を蹴散らすと、不良達は一目散に逃げ出した。
そして再び静寂が訪れると、あかりは良牙のところに駆け寄った。
「大丈夫かい?あかりちゃん・・・」
「ええ・・・良牙さまこそ怪我はないですか?」
「いや・・・大丈夫だ・・・ちょっと山をおりてる時に腕をかすったくらいで・・・」
確かによくみると、左腕に出血の跡がある・・・傷口は塞がっていたが。
それでもあかりはハンカチを取り出すと、傷口に軽く巻いた。
「また切っちゃったら大変ですし・・・」
と、言い訳するかのように一言言った。
「そ、そうか・・・ありが・・・とう。」
照れくさそうに良牙が答える。
「と、とりあえず・・・そこに座ろうか・・・」
良牙は嬉しさを胸に感じながらそういうのであった。
そしてその頃の乱馬とあかねは・・・
「ほらほら、街がきれいよ?」
「いや・・・見なくてもいい・・・」
観覧車に乗っていた。
そしてその下では、殺気じみた人間がいた。
もちろんなびきによって情報を得た者たちだ。
彼らは観覧車から二人が降りてくるのをじっくり待っていた。
・・・10分後、二人はゆっくりやってきた・・・
その時!
「乱馬!早くあかねから離れるよろし!」
「乱ちゃん・・・これはどういうことや?」
「天道あかね!許しませんわ!」
「おのれ早乙女乱馬!天道あかねをたぶらかすとは許せん!」
4人は一斉に二人に向かってきた!
「げっ・・・よくわからねーけど逃げるぞ、あかね!」
そう言うと乱馬はあかねを抱きかかえ、全力で逃げ出した。
もちろん後ろの4人も追い掛ける・・・が、右京だけは動かなかった。
ぽつんと1人取り残される右京。
どんどん遠くに行ってしまう集団を見つめながら、
「あかねちゃん、ええなぁ・・・」
少し涙ぐみながらそう言うのであった。
そして再び良牙とあかり。
「あの・・・良牙さま・・・受け取っていただけますか?」
そういうとあかりはずっと持っていた袋を良牙に手渡した。
「あ・・・ありがとう、あかりちゃん・・・」
照れながらも良牙は袋を開いた。
そこには、きれいな服があった。
「これは・・・」
良牙は驚きを隠せない様子であった。
「あの・・・いつも服がぼろぼろなので・・・新しい服を作ったんですけど・・・
いりませんでしたか?」
良牙はその服を手に取ってみた。
若干厚手で丈夫にできている服である。
ちょっとかわいらしいデザインになってはいるが着られないことはない。
長袖なので着られる期間は限られてるものの、良牙の心を満たすには充分であった。
「ありがとう・・・早速着てもいいかな・・・?」
「ええ、ぜひ!」
あかりはとても嬉しそうに答えた。
一瞬ためらったものの、良牙はすぐに着替えた。
「ど、どう?似合うかな?」
良牙はちょっと恥ずかしそうにしながらも聞いた。
「ええ・・・とても似合いますわ!」
あかりは自分の作った服の出来に満足しているようだ。
そしてあかりは、再び下に目をやると、さっきまで良牙が着ていた服を手に取った。
「あ、あの・・・この服洗ってもよろしいですか?」
上目遣いながらあかりが聞く。
「えっ?別にいいけど・・・」
すこし戸惑いながら良牙が答える。
あかりは服をたたみなおし、ひざの上に置いた。
少し沈黙があり・・・そしてあかりは良牙の方を向いた。
「良牙さま・・・」
そういうとあかりは少し顔を上に向け、目を閉じた。
「あかりちゃん・・・」
良牙はおそるおそるあかりの肩に触れ、震えていた。
じわじわと顔を近付けるものの、なかなか勇気がでない。
お互いの息が感じられる距離にまで近付いたものの、ここから全く動けなくなった。
良牙は自分の鼓動にまけそうなくらい緊張していた。
と、その時である。
突然誰かが良牙の頭を踏み台にしたのである。
当然良牙は下に押し出され・・・あかりの顔にぶつかった。
良牙は何か言おうとしたが、口が動かない。
なぜなら二人の唇が重なっていたからだ。
二人はずっと時が止まったかのように動かなかった。
五分はたったろうか。
ようやく良牙が頭をあげると、あかりが涙を流していたことに気付いた。
良牙は慌てふためいた。
「ごっ、ごめん・・・痛かったかい?」
あかりは溢れる涙を拭こうともせず、良牙の目をじっとみつめていた。
「いいえ・・・嬉しいんです・・・嬉しいのに涙が止まらなくて・・・」
「あ、あかりちゃん・・・」
良牙は優しくあかりの涙を拭いてあげた。
「あ、あのっ・・・」
「な、なんだい?」
「今日は・・・ありがとうございました・・・」
「ええ?」
「今はすごく幸せですから・・・これ以上幸せになったらもったいないですわ。」
「そ・・・そういうものなのか?」
あかりの意外な言葉に驚く良牙。
「あの・・・また今度正月にでも・・・」
「正月だったら・・・今からなら間に合うかもしれないな。」
「では・・・またあいましょう、良牙さま。」
「ああ・・・気をつけて帰るんだよ?」
そして二人は去っていった・・・
と、思ったのだが。
「あの・・・良牙さまの家は反対方向では?」
「え?そうだったっけ?」
結局二人はあかりの家まで一緒に歩いていた。